90s HIPHOP 「MIC GERONIMO」誰もが語り継ぐアルバムがここにある。

1995年、クイーンズから生まれた”知る人ぞ知る”名盤 『The Natural』を聴き返す

「あの頃のJay-ZもDMXもJa Ruleも、まだ無名だった」

そう聞いて興味が湧かない90年代ヒップホップファンはいないだろう。Mic Geronimo(マイク・ジェロニモ)の1st アルバム『The Natural』は、そんな伝説の一枚だ。1995年11月28日、Blunt Recordings/TVT Recordsからリリースされたこの作品は、ビルボード200では144位という地味な成績に終わりながら、四半世紀以上経った今もアンダーグラウンド・クラシックとして語り継がれている。

クイーンズの高校の才能発掘イベントから始まった物語

Mic Geronimoの本名はMichael Craig McDermon。1973年生まれ、クイーンズ出身。彼のキャリアは、のちにMurder Inc.を率いることになるIrv Gottiとの出会いから始まった。高校のタレントショーで彼を見出したIrv Gottiとその兄の勧めで録音したシングル「Shit’s Real」がアンダーグラウンドでヒットし、そのままBlunt/TVTとの契約、そして『The Natural』のリリースへとつながっていく。

豪華すぎるプロデューサー陣と、無名時代の顔ぶれ

このアルバムを語る上で欠かせないのが制作陣の豪華さだ。Mark Sparks、Buckwild、Irv Gotti、Da Beatminerz、Chyskillzといった、90年代東海岸サウンドを支えたビートメイカーたちが名を連ねている。

そして何より伝説として語られるのが「Time To Build」という楽曲。ここに参加しているのが、まだ無名だったJay-Z、DMX、Ja Ruleの3人だ。後に頂点を極めることになる3人が、それぞれの持ち味そのままに一つのトラックでラップを回している記録は、今聴くと感慨深いものがある。

シングル4曲、そして「Masta I.C.」が残したもう一つの遺産

アルバムからは「Shit’s Real」「Masta I.C.」「The Natural」「Wherever You Are」の4曲がシングルカットされた。中でもBuckwildプロデュースの「Masta I.C.」は、Royal Flushのゲスト参加とX-EcutionersのRoc Raidaによるスクラッチが光る一曲で、ビルボードのHot Rap Singlesチャートで30位を記録している。

余談だが、このトラックは日本のヒップホップシーンにも影響を残していて、Shakkazombieの楽曲でもその存在感が語られることがある。海を越えて響いた一枚だったということだろう。

クイーンズのストリートを歩くようなリリック

『The Natural』の核にあるのは、フラッシングやクイーンズで育った若者としてのGeronimo自身の視点だ。都市の貧困、危険と隣り合わせの日常、仲間との連帯、そしてのし上がっていくことへの渇望。ワンパターンな武勇伝ではなく、一人称の落ち着いたストーリーテリングで綴られるところに、当時のThe Sourceが「Nasやモブ・ディープを思わせる」と評した所以がある。

なぜ今、聴く価値があるのか

チャート成績だけを見れば、決して「大ヒットアルバム」ではない。しかし『The Natural』が今なお語られ続けているのは、それが単なる一発屋のデビュー作ではなく、後にヒップホップシーンの中心にいくつもの名前を送り出した”出発点”だったからだ。Murder Inc.の萌芽、Buckwildのビートメイク、そしてまだ荒削りだった若きラッパーたちの声。

もしまだ聴いたことがないなら、まずは「Time To Build」から入ってみてほしい。あの頃の彼らがどんな声でラップしていたか、きっと驚くはずだ。

次回も、名盤をディギン。

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