Nasの『It Was Written』が、なぜ『Illmatic』を超える「最高傑作」と評されるのか、その核心に迫る。
ヒップホップの歴史において、1994年の『Illmatic』は神格化されています。しかし、あえて言わせてください。「Nasの本当の凄みは、2作目の『It Was Written』(1996年)にこそ詰まっている」と。
前作の「高すぎる壁」と戦い、Nasをストリートのカリスマから世界のスーパースターへ押し上げた、この隠れた大名盤の魅力を3つの視点で紐解きます。
1. 「売れ線への魂の売却」という大いなる誤解
本作は、当時ポップヒットを量産していたTrackmastersをプロデューサーに起用しました。
そのため、一部のコアなファンから「商業主義に走った」と叩かれた歴史があります。
しかし、鳴り響いたのは安易なポップスではありません。
- 映画のような世界観:マフィア映画にインスパイアされた、冷徹でゴージャスな世界観。
- 洗練されたサンプリング:Stingの名曲を使った「The Message」のリリックはクールとは何かをしれます。
クリアなサウンドになったことで、Nasの「ナイフのように鋭いフロウ」と「緻密なストーリーテリング」が、前作以上に際立つ結果となったのです。
2. 人類史上最高のリリック「I Gave You Power」
本作でNasが放ったリリシストとしての狂気は、4曲目の「I Gave You Power」に凝縮されています。
なんと彼は、この曲で「擬人化された一丁のピストル(銃)」の視点からラップをしています。
「俺は冷たい鉄の塊。男たちのポケットに忍び込み、引き金を引かれるたびに命を奪う。もう誰も傷つけたくないのに、また新しい主人が俺を握りしめる……」
銃社会の悲劇とストリートの虚しさを、銃自身の独白として描く圧倒的な筆力。この1曲を聴くだけでも、彼が単なるラッパーではなく、稀代の「詩人」であることが分かります。
3. ローリン・ヒルとの化学反応で世界の頂点へ
アルバムのハイライトは、Lauryn Hill(ローリン・ヒル)をfeatした「If I Ruled The World (Imagine That)」です。
もしも俺がこの世界を支配したら、すべての囚人を解放し、貧困をなくす――。
重い現実を描きながらも、ローリンが歌うメロウなメロディは、暗闇に差し込む光のようでした。この曲の大ヒットにより、アルバムは全米1位を記録。数字としてもキャリア最大の成功を収めました。
『Illmatic』が教科書なら、本作は映画だ
『Illmatic』がヒップホップの「教科書」なら、『It Was Written』はNasという男の人生をかけた「映画」です。
発売から時が経った今だからこそ、当時の「セルアウト(売名)」という雑音を抜きにして、この純粋な芸術作品に向き合ってみてください。1stアルバムの時には気づけなかった、Nasの底知れない表現力に鳥肌が立つはず。
次回も、名盤をディギン。

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