00s HIPHOP「BOOTCAMP CLIK」これがブルックリンの質感。2002年の名盤『The Chosen Few』豪華プロデューサー陣と極上のマイクリレーで首を振れ!

トラップ耳には”硬すぎる”かもしれない。Boot Camp Clik『The Chosen Few』を今こそ聴くべき理由

正直に言う。今の柔らかく丸いトラップの808や、ハイファイに磨かれたメロディックなフローに耳が慣れた状態でこのアルバムを再生すると、最初の数秒で「硬すぎる」と感じるかもしれない。優しさもツヤもない。ただひたすら硬質なドラムと、冷たいコンクリートの匂いだけが充満している。

でもそれこそがこのアルバムの本質だ。『The Chosen Few』は「気持ちよく浸る」アルバムじゃない。「殴られる」アルバムだ。90年代のBCCが好きな人間からも、意外と語られる機会が少ないこの2002年作。なぜこれが「隠れた大傑作」と呼ばれるのか、今日はそこを徹底的に言語化していく。

ブルックリンの「冷たさ」は、演出じゃなく生理現象だ

このアルバムを聴いてまず感じるのは、異常なまでの「温度の低さ」だ。今のヒップホップの多くは、たとえダークなテーマを扱っていても、どこかでメロディや高域の煌びやかさで聴き手を安心させようとする瞬間がある。でもこのアルバムにはそれが一切ない。

冒頭の「Welcome To Bucktown USA」から、空気を切り裂くように硬いドラムと不穏なネタ使いが襲いかかってくる。この「冷たさ」は演出じゃない。1997年作『For the People』で滑らかな音作りに寄せて痛い目を見た彼らが、原点である「地を這うような重低音」に舞い戻ってきた、その生理的な反動そのものがサウンドに焼き付いている。だからこのアルバムには、狙って作られたダークさではなく、本当に苦い経験を経た人間だけが出せる「地に足のついた冷たさ」がある。イヤホンではなく、部屋のスピーカーの低音でこの温度を体感してみてほしい。

The Alchemistが仕掛ける「不穏なループ」の中毒性

プロデューサー陣の中でも、特筆すべきはThe Alchemistの仕事だ。当時まだ今ほどの絶対的な地位を確立していなかった彼が、このアルバムで見せているループの選び方は、明らかに只者じゃない。

彼のトラックの怖さは、「わかりやすい不穏さ」ではなく「じわじわ効いてくる不穏さ」にある。一聴した瞬間はメロウに聴こえるのに、聴き込むほどにループの端々に潜む違和感、微妙な音程のズレや、サンプルの切れ目に残る不自然な間が、脳の奥をチクチクと刺激してくる。この「気持ち悪さと気持ちよさが紙一重」な感覚こそが、彼がのちに世界最高峰のプロデューサーへと登り詰めていく萌芽そのものだ。Hi-Tekが手掛けた楽曲のソウルフルでエッジの効いた質感、Da Beatminerzが持ち帰ってくる原点回帰の重低音とあわせて聴くと、このアルバムが単なる「懐古」ではなく、当時の最前線の才能を巻き込んだ「更新作業」だったことがわかる。

7人になったことで逆に際立った、マイクの果たし合い

このアルバムを語る上で避けて通れないのが、Heltah SkeltahのRockがこの作品に参加していないという事実だ。8人の精鋭のうち一人が欠けている。普通に考えれば戦力ダウンだ。

でも実際に聴いてみると、不思議なことにこの「欠落」がアルバム全体の緊張感をむしろ研ぎ澄ませている。相方不在の中でマイクを託されたSean Price(当時Ruck名義)は、いつも以上に一言一言の重みを増して吐き出しているように聴こえる。Buckshotの冷徹で計算され尽くしたフロウ、Smif-N-Wessun(Tek & Steele)の息の合ったコンビネーション、O.G.C.の三者三様のクセの強さ。誰一人として同じ声質、同じフロウのタイプがいないからこそ、一人ひとりの「持ち場」がはっきりと浮かび上がる。これは仲良しグループの掛け合いじゃなく、軍隊のように統率された「マイクの果たし合い」だ。「And So」や「Think Back」のような楽曲で、次々とバトンが渡されていくスリルは、今のフィーチャリング文化にありがちな「それぞれが別録りで送り合っただけ」の作品には絶対に出せない緊張感を持っている。

まとめ:今夜、低音を上げてブルックリンに沈め

『The Chosen Few』は、優しさでも派手さでもなく、「冷たさ」と「不穏さ」と「統率されたマイクリレー」で殴ってくるアルバムだ。Alchemistの中毒性の高いループ、Hi-TekとDa Beatminerzが刻む重低音、そして7人になっても揺るがなかったBCCの結束力。そのどれもが、今の丸く優しいトラップサウンドには絶対に出せない硬さを持っている。

サブスクで一度流し聴きして「なんとなく硬派」で終わらせるのはもったいない。今夜、部屋の明かりを少し落として、スピーカーの低音を上げてもう一度潜ってみてほしい。2002年のブルックリンの冷たい空気は、間違いなく今もあなたの首を強制的に動かしてくる。

次回も、名盤をディギン。

コメント

タイトルとURLをコピーしました